宵越しのお茶って緑茶のタンニンが増えるから飲んではいけないというのが通説だと思います。
しかし烏龍茶、紅茶、ほうじ茶、番茶などではどうなんだろうと思った時に探したらよい文献があったのでご紹介致します。
この文献の中を簡単に要約すると
煎茶、玉露、かぶせ茶、川柳、番茶、ほうじ茶、烏龍茶、紅茶の8種類で実験した
お茶の旨味成分であるアミノ酸のテアニンは24時間後には煎茶、玉露、かぶせ茶、川柳はほとんどなくなり、番茶、ほうじ茶、烏龍茶、紅茶は25%減り、烏龍茶はほとんど変わらなかった
タンニンはお茶を入れたばかりの時はどのお茶もあまり変わらなかったが、24時間後は煎茶、玉露、かぶせ茶、川柳は少ししか増えなかったが、番茶、ほうじ茶、烏龍茶、紅茶は2倍以上に増えた
細菌の数はどのお茶も増えたが煎茶、玉露、かぶせ茶、川柳の増加率が高かった
結論は、宵越しのお茶は基本的にどのお茶も飲まないほうがいい。煎茶、玉露、川柳、かぶせ茶などの緑茶系は腐敗が顕著。番茶、ほうじ茶、烏龍茶、紅茶はまだ日持ちはするが、淹れたてのお茶に比べると悪いことはあるが、害は少ない。
といった感じです。
上記の論文を書き起こししましたので参考にしてください。
※上の要約の実験内容です。
宵越しのお茶の成分変化に関する研究
お茶にはカテキンやフッ素など虫歯を防ぐ成分や、タンニン、ポリフェノールなどガンの発生を抑制する成分が含まれることが明かにされており、お茶をよく飲む地方ではガンの発生が少ないという調査結果も報告されている。
一方、緑茶のタブーの1つとして「宵越しの茶は飲むな」と云うことわざが昔から伝えられてい る。
古人が、前日入れたお茶や1晩放置したお茶がらで入れたお茶を飲むと、健康に害があるとい うことを経験的に練めたものと思われる。
しかし、1晩放置することでどのような成分がどのように変化するのか、今まで殆ど研究されていない。そこで、育越しのお茶の成分変化を科学的に解明したいと考えてこの実験を行った。
同じ緑茶の中でも番茶は「いたみにくい」「日持ちする」と云われ、入れてからかなり時間をおいて飲むことも行われているので、お茶の種類によっても差があることが考えられる。
従ってお茶の種類についても、玉露、煎茶、番茶、烏龍茶、紅茶など数種を選んで試験した。
その結果、煎茶、玉露等では、24時間後の茶がら中の細菌数が、番茶、烏龍茶、焙じ茶に比べ著しく増加していること、後者では茶がら中に存在するタンニンが細菌の増殖を抑制している可能性が考えられることなどが明かになった。
本研究では、各種飲用茶について、24時間放置後の各種成分及び細菌数を測定した結果を報告する。
1.実験材料及び実験方法
(1)供試茶葉及び試料の調整法 次の各種茶葉を購入し、本実験に使用した。
煎茶:夢(大三茶舗)
玉露:じん(大三茶舗)
番茶:(キタハイ協茶センター)
かぶせ茶会(堀川製茶園)
川柳:川柳(石川茶舗) 焙じ茶
ほうじ茶(丸八茶補)
烏龍茶:日本流通産業(株)
紅茶 : 三井農林(株)
放茶、玉露、かぶせ茶、川柳からの試料の調整 同一茶葉各3gを、それぞれ2個のピーカーに採り、60°Cの温湯50mlを加え3分間放置する。
これを流しで流し、そのろ被(1R)は捨てる。(本実験は1取を採った後の茶がらを放置した場合の成分変化を調べるのが主目的であり、1煎は使用しない)。
それぞれの茶がらを含む2 個のピーカーの一方に60°Cの温湯50mlを加え、上と同様2歳を採り0時間試料とした。
同じ茶がらを含むもう一方のピーカーは24時間室温に放置後、上と同様2敵を採り24時間試料とした。(「育越し」の意から、1日以上は放置しないものと考え24時間後の2歳を試料とした)。
番茶、焙じ茶、烏龍茶、紅茶からの試料の調整 前記試料調整では60°C温湯で浸出したが、本試料では95°C熱湯を用い浸出した。他の実験条件は 全て前記試料と同様とし、それぞれの試料を調製した。
(3) タンニンの測定
特にフォーリン薬を加えタンニンを発色させた。 後、比色法により測定した。
料0.2ml を採り、フォーリン0.5m1, 純水1.8ml, 2 及び0.05M炭酸ナトリウム2.5ml を加え焼拌した後、 30°C30分放置し、560mm における吸光度を測定する。 中
別にタンニンの純品について、同じ条件で標準曲線: を作成しこの曲線からタンニン量を求めた。1になる ンニンの標準曲線を示した。
図1 タンニン測定用標準曲線
(4) 紫外部吸光スペクトルの測定
日本分光工業社製自記分光光度計 (Ubest-30型)により、200~300mm における吸光スペクトル を測定した。試料溶液は20~50倍希釈した。
(5) 一般細菌数の測定
試料調製の際に熱湯や温湯で浸出すると歯の1部が死滅する恐れがあるので、2煎の浸出には生 理食塩水を用いた。他の試料調製条件は全て前記と同様に行った。 各試料の細菌数は、標準寒天培地を使用し常法に従って測定した。
(6)試薬類
テアニン、タンニン及びグルタミナーゼはシグマ社より購入した。その他の試薬類は何れも和光 純薬社より購入した。
II.結果及び考察 (1) テアニン含有量の変化
各種茶葉を用い、実験方法に従って温湯 又は熱湯で浸出した1煎を捨て、その茶が らから直ちに浸出した2煎(0時間試料: 対照)及び茶がらを24時間室温に放置後浸 出した2煎(24時間試料)についてテアニ ン含有量を測定した。 結果を表2に示す。
表2 テアニンの変化(浸出液100ml中) |試 料10時間(mg)|24時間後 (mg)|低下率(%) 王 : 43.9
表から明らかなように、テアニンは何れの茶葉においても、24時間放置した茶がらからの試料、 いわゆる「宵越しの茶」の方が、0時間料より低い値を示した。しかし、その低下の度合いは、 個々の茶葉により著しく差があることが分かった。すなわち、玉露、川柳、かぶせ茶、煎茶では95 ~50%低下するのに対し、烏龍茶、紅茶、番茶、焙じ茶では0~28%の低下に留まった。
テアニンはお茶の代表的な旨味成分であり、一般にテアニン及びアミノ酸含量が高いほど高級茶 とされる(表1参照)が、この高級茶ほどテアニンの低下が著しい傾向がみられる。
テアニン及びアミノ酸は微生物の栄養源になり易いことから、これらを多く含む高級茶では微生 物によりテアニンが分解していることが予想される。
(2) タンニン含有量の変化 テアニンと同様、1期後の茶がらから0時間及び24時間浸出試料のタンニン量を測定した。 結果を表3に示す。
261 形で存在しているため、0時間でほぼ完全 に溶出されるものと推定される。一方、番 茶、烏龍茶、焙じ茶、紅茶では、0時間試料のタンニン量は低い値を示しているのに対し、24時間 飲料では、0時間試料の2~3倍高い値を示した。すなわち、これらの茶葉中のタンニンは、かな り溶出されにくい形で存在しているために溶出に長時間を要するものと思われる。
このように二つのグループでタンニンの溶出し易さが異なるのは、玉露、煎茶、かぶせ茶、川柳 の場合、その製造原料が若くて組織が軟らかい茶葉であり、組織が崩れ易いので、0時間試料中に 多く溶出することが考えられる。一方、後者のグループの場合は、製造に使用する茶葉がかなり成 長して組織が固くなったもの(番茶)や、製造過程中の発酵工程で茶葉を十分酸化させたもの(島 龍茶、紅茶)、組織が固い茶葉を用い、製造過程で強く加熱したもの(焙じ茶)など、何れもタン ニンが溶出しにくい状態にあるため、可溶化に時間を要することが推定される。
なお、表1に示したタンニンの分析法は、茶葉浸出時間が10分と短いが、もし本実験のように20 時間以上かけて後出した後分析すれば、番茶、烏龍茶のタンニンはこれより2倍近い高い値を示す ものと思われる。事実、番茶で1煎を探った後の茶からを、24時間放置した後入れた2煎のお茶は 可なりの渋みを感じることからも、タンニンが多量含まれることは明らかである。
(3)一般細菌数の変化
表4 一般細菌数(浸出液0.1ml中) 前述のごとく、テアニン及びタンニンの測定は、1煎を
試料10時間 24時間後 捨てた後、0時間または24時間後、温湯または熱湯を加え
581 て浸出した2歳を試料としたが、実験方法の項でも述べた ように熱湯による菌の死滅を避けるために、細菌数の測定 では生理食塩水で浸出した2歳を試料とした。 0時間及び24時間試料中の細菌数を測定した結果を表4
112 に示した。
表にみられるごとく、一般細菌数は玉露、かぶせ茶、川柳、煎茶に多く観察され、烏龍茶、焙じ茶、 番茶、紅茶には少ないことが認められる。最も多かったのは、玉露、かぶせ茶の280前後であった。
これらの結果は、上記表3に示したタンニン含有量と高い相関性があると思われる。すなわち、 烏龍茶、番茶、焙じ茶、紅茶では、何れもタンニンの溶出が遅いために、24時間後もその濃度が高 いレベルに保たれている。従って、タンニンの殺菌力により菌の増殖が抑えられるものと思われる。
これに対して、玉、煎茶、かぶせ茶、川柳では、全体的にタンニン含有量が少ない(表1)うえ に溶出し易い状態にあるために、1煎や0時間試料中に溶出する可能性がある。従って、残ってい るタンニンが少ないので、菌の増殖を抑制する効果が十分でなかったものと思われる。
別の実験で、純粋なタンニン試薬を種々の度に溶解した料について、Bacillus subtilis, Staphylococcus aureus 両 に対する増殖阻害効果を調べた結果、タンニンは0.1~0.2%の低 い濃度で阻害効果を示すことが認められた(データ省略)。 従って、烏龍茶、番茶等に含まれるタンニン濃度では、細菌の増殖を抑制することは、十分考えられる。 なお、タンニンの増殖抑制はタンニンが溶解した状態でその効果を現すことは、他の抗菌物質と 同様である。
(4) 紫外部吸収スペクトルの変化
各種茶がらからの24時間及び0時間試料について、紫外部吸収スペクトルを自記分光光度計によ り測定した。 結果を図2に示す。
図20時間及び24 時間試料の紫外部吸光スペクトル(その1)
1回2時間及び24 時間試料の紫外部吸光スペクトル(その2)
図にみられるように、何れの浸出液も吸収極大は272mm 付近にみられ、これはタンニンの示す極 大と一致する。この吸収極大値は、0時間に比して24時間が著しく高い値を示す試料(焙じ茶、番 茶、烏龍茶、紅茶)と、その差が殆どみられない試料(玉露、かぶせ茶、煎茶、川柳)があること が解った。この図2の結果は、表3に示したタンニンの測定結果とほぼ同じ傾向を示している。す なわち、この吸収スペクトルの変化からも、焙じ茶、番茶、烏龍茶、紅茶の場合、24時間料は0 時間試料に比してタンニンが著しく多いことが確認される。
「越しの茶は飲むな」のことわざは、本実験の結果から総合すると、「有越しのお茶は、特に 玉意、かぶせ茶、煎茶、川柳などのいわゆる高級茶の場合、細菌による腐敗がおき易く、健康を害 する恐れがあるので飲まない方が良い」ことを意味するものと結論される。ただ、お茶の中でも、 番茶、烏龍茶、紅茶、焙じ茶では腐敗はそれほど進行しないので、これらは「日持ちの良い」「い たみにくい」お茶と云うことができよう。
要約
「育越しの茶は飲むな」のことわざの理由を知るために、種々の茶について、1煎をいれた後の 茶がらを0時間及び24時間放置した後入れた2由について、テアニン、タンニン、一般細菌数及び UV吸収スペクトルを測定した。その結果、
1) テアニンは24時間放置することにより全ての試料で減少したが、特に玉露、煎茶、かぶせ茶、川柳(Aグループ)は著しく減少した。一方、番茶、烏龍茶、紅茶、焙じ茶(Bグループ)では減少率は低かった。
2) タンニンは、Aグループでは24時間試料も0時間試料と大差なかったが、Bグループでは24時間試料は0時間試料の2~3倍高い値を示した。Bグループのタンニンは水に溶けにくい状態で存在し、24時間放置中に徐々に茶がらから溶出されたものと考えられる。
3)一般細菌数は、Aグループの24時間試料に高い値がみられ、Bグループ試料では何れも低かった。別に、タンニン自身の抗菌力を2種の菌で測定した結果、Bグループの試料中に含まれる濃度では明らかに増殖抑制効果を示すことが認められた。
4) 紫外部吸収スペクトルを測定した結果、吸収極大は何れも272mm 付近にあり、タンニンの九州と推定された。またその強さは、Aグループでは0時間試料と24時間試料で大きな差はみられなかったが、Bグループでは24時間試料は0時間試料より著しく増大していた。
5)以上の結果から、「宵越しの茶は飲むな」のことわざは、「育越しのお茶は、特に玉露、かぶせ茶、煎茶、川柳など高級茶の場合、細菌による腐敗がおき易く、健康を害する恐れがあるの で飲まない方が良い」ことを意味しているものと結論される。ただお茶の中でも、番茶、烏龍茶、紅茶、ほうじ茶では、腐敗はそれほど進まないので、飲んでも害は少ないものと思われる。
参考文献
1)講談社出版研究所、食品科学大辞典、講談社(1981)
2) 茶の科学、村松敬一郎編、朝倉書店(1991)
3) 緑茶・紅茶・烏龍茶の科学と機能、中林、伊奈、坂田編著、弘学出版(1994)
4)池ケ谷賢次郎、食の科学、117(11),29(1987)
5) 将積祝子他、茶研報、No.60,59(1984)
6) 阿南他、食工試、28,74(1981)
7) Oguni, I., Jpn, J. Nutrition, 47,93(1989)
8) 小国伊太郎他、静岡女子短期大学研究紀要、29、(1981)
9) 中川政之他、茶研報、37(1972) 10)日本化学会、味とにおいの化学学会出版センター(1976)
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